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【近世文学】昔話稲妻表紙――蛇が女性の腹に巻き付く事

現在、山東京伝の『昔話稲妻表紙』を読んでいる。

作中で蛇が女性の腹に巻き付き、一家中が大慌てするという描写があるのだが、その後の展開が妙に面白かったので、メモとして記しておく。

 

 

 

 

ことの発端はこうだ。南無右衛門という男性が昼に農作業に行く最中、三尺程(90cmあるかないか)のが蛙を飲みこもうとしているのを見つける。南無右衛門は元来やさしい性格なので、に「その蛙を離してやってくれ。」と言う。また戯れに「離してくれたら私の娘をお前にやろう。」とまで言ってしまう(迂闊也)はこれを聞き入れると、蛙を離し、草むらへと戻っていく。 

その日の夜、南無右衛門の娘であるが発熱で苦しみだす。南無右衛門と妻の磯奈(いそな)はを助け起こして見てみると、昼に見たの腹に巻き付いているのを見つける磯菜はこれをみて身の毛がよだち、「早く取って捨てて」と南無右衛門にたのむ。

南無右衛門は「マジで?昼の冗談本気にしたの?」と言いつつを取り、谷底へと捨てるが翌日もの腹に巻き付いている。南無右衛門の頭を斧で砕いて殺し、家から遠い場所に捨てるも再度に巻き付く。これに苛立った南無右衛門を焼き殺そうとするもは火中から飛び出し、またの腹に巻き付く。の執念はとても深いものであった。

 さて、南無右衛門は詮方なく、をそのままにしておいた(えぇ……)の腹に巻き付いているだけで特段何か害を及ぼすわけでは無かったので、は最初はを恐れたが徐々に馴れていき、「(前世の因果であろう。)」と諦めてからはなんと却ってへの愛着がわき、朝夕の食事を分けて与えるほどになったの方もこの状況に馴れてからは食事時にの懐から顔を鎌首を出し、食事を貰いだしたという。

 

 

個人的にはこれまで、

・女性が恨みを抱いて蛇となる。(山東京伝『桜姫全伝曙草紙』「野分方嫉妬害玉琴」等)

・蛇が人間に害をなし、故に退治される。(上田秋成雨月物語』「蛇性の婬」等)

・蛇が人を救う。(反古斎『怪異前席夜話』匹夫の誠心剣に入て霊を顕す話」等)

というような、少々怖い(畏れる?)話を多く目にしてきたため、今回のような例を見て少々驚いた。いや話の形態自体にも驚いたし、何よりが馴れたからそのままにしてペットのように扱ったという展開に驚いた。このように記されるとなんだかが可愛く見えてしまうではないか。

 

 

蛇と人とのかかわりについては多く民俗学や文学、歴史学など、様々な学問領域から論文が出されているので、ここで迂闊な明言は避けたい。が、個人的には、あれだけ恐れられ、神性を持った蛇を飼いならす展開を初めてみたので、少々笑ってしまった。

いや、むしろ恐れられ、神性を持っているという点を疑うべきなのであろうか?なんにせよ、今の段階では印象論であるため、やはり口をつぐむべきであろう。

近世文学への興味は尽きない。

 

 

追記(18'/6/27)

上の話、どうやら「蟹満寺」の縁起譚を基にした話らしい。www.leafkyoto.net

 どうやら『今昔物語集』や『日本霊異記』にも同様の話が見られるらしい(面倒で確認していない)。

……しかしなんでこの話を読本に取り入れたんだ……?